Awareness and working memory in strategy adaptivity
Schunn, C. D., Lovett, M. C., & Reder, L. M.
Memory and Cognition, 2001, 29, 254-266

【問題と目的】
1. 方略研究の流れ
・Single Strategy Approach
学習者は単一の方略を使用する.課題によって使用の切り替え(switch)が起こる
      ↓
・Multiple Strategies Approach
学習者は方略を使用頻度の「分布」として持っており,多くの方略を同時に使用.課題に適応(adapt)するために,この分布を変化させる.全ての学習者が適応的であるという前提.
      ↓
・(Strategy Adaptivity Approach)
上記の適応に個人差を措定する.

本研究の立場はMultiple Strategies Approach(もしくはStrategy Adaptivity Approach).

2. 方略使用のモデルと懸案点
・方略選択と方略変容に関するモデル
Anderson&Lebiere(1998), Lovett&Anderson(1996), Reder(1982, 1987, 1988), Reder& Schunn(1996), Siegler&Shipley(1995), Siegler&Shrager(1984) など多し

・ これらのモデルの共通点
方略成功の比率(base rate of success)が基本的な情報であり,方略選択の基準.

・ これらのモデルにおける懸案点
(1) 成功比率は作動記憶に貯蔵されるのかそれとも長期記憶なのか?
(2) 成功比率に基いた方略の適応は意識的なのか無意識的なのか?
いくつかのモデルは無意識的制御を想定⇔メタ認知による方略制御の説明

・ この両者には結びつきがある
作動記憶は意識的な過程を伴い,作動記憶による処理でなければ無意識的な過程の可能性.

・ 本研究の目的
上記の問題に答えるため,作業記憶容量と成功比率(の変化)への気づき(awareness)が方略の適応性にどのような影響を与えるかを調べる.またあわせて,先行研究で方略の適応性と関係があると示された帰納推論能力が,どのように媒介をしているのかを調べる.

3. 本研究で使用する課題
・Building Sticks Task(BST; Figure 1.)
3本のスティックを足したり引いたりしながら,目標の長さのスティックを作成する.

・ 2つの主な方略
(1) undershoot strategy:まず目標より短いスティックを用いて微調整
(2) overshoot strategy:まず目標より長いスティックを用いて微調整

・課題がどちらの方略で解決可能かを操作することによって,方略の成功比率を操作可能.

【実験1】
≪方法≫
・ 被験者
56人の大学生.50-80-20群42人.50-20-80群14人 .

・ 測度
WM:Synthesis Add Matrices test(CAM4より).空間作動記憶容量を測定するもの.
帰納推論能力:同じCAM4より.帰納的な空間テスト.

・ 課題
BSTは全70試行(7ブロック)より構成.一見してどちらの方略が有効かは分からないように課題を作成.50-80-20群では,最初の1ブロックはどちらの方略を使用しても成功確率50%, 次の3ブロックではundershootを用いると成功確率80%, 最後の3ブロックではundershootを用いると成功確率20%となっている.50-20-80群はその逆で,undershoot方略を用いると,真中の3ブロックでは正答確率が20%だが,最後の3ブロックでは正答確率80%.

・ 方略の適応性
各試行で,最初に用いた選択によって方略をover-undershootに分ける.4から7ブロック目まで,ブロックごとに方略の平均使用数を算出し,その変化を適応性の指標とする.

・ 成功比率への気づき
全試行終了後,「方略の有効性にパターンはありましたか?」「ある方略の有効性が変化していることに気づきましたか」などの質問を行い,その有効性の変化に(正しい方向で)気づいた被験者を「気づきあり=1」とコーディングした.

≪結果≫
・ 全体的な適応性(Figure2)
平均すると全体的に適応している.2つの条件のパターンは反転させると非常に類似しているので,片方の条件を反転させた上,もう片方の条件に足し合わせて分析を行う.

・ 個人差
ブロックごとの標本平均値を真値として,モンテカルロ法によるシミュレーション(N=1000)を行い,適応性の予測値を算出.それと実際のデータとのズレをみたのがFigure3.横軸は適応性(ブロック7の方略使用−ブロック4の方略使用).これをみると,予測値と観測値の間には有意なズレがある.方略使用には,偶然の分散では説明できない個人差が存在することを確認.また,以下適応性が負の値である被験者を非適応的な被験者と呼ぶ.

・ 非適応的な被験者について
この非適応性が天井効果や床効果でないことを確認.また,課題を早くやりすぎたために生じたわけではないことを課題遂行時間のANOVAで確認.

・ 気づきの有無と適応
気づきあり群(18人)と気づきなし群(37人)の2群に分け,2(気づきの有無)×7(ブロックの方略使用数)のANOVA.Figure4にあるように,交互作用が有意で,気づきが会った群の人はより大きな方略の変容を見せた.

・ 作動記憶・帰納推論能力,そして気づきと適応性
Table1に相関表.重回帰分析などを併用した結果,WM⇒帰納推論能力⇒気づき という媒介モデルが示唆された(論文中に具体的な数値などは一切なし).帰納推論能力がWMと気づきや適応性を媒介している可能性.但し,帰納推論と気づきは負の関係.

≪討論≫
・ 学習者は方略を適応的に変化させている.
・ 成功比率の変化への気づきと方略の適応性には関係がある…3つの解釈が可能
1. 成功比率の変化への気づきが方略の変化に影響を与えている
2. 方略の変化が成功比率の変化の気づきを生み出している
3. 第三変数がこの相関を生み出している…WMと帰納推論能力に関してはそれはなさそう(方略の適応性に直接効果を持っていないから).

この1,2の弁別を実験2では検討する.

・ WM容量と方略の適応性には直接の関係はなさそう
Nが小さいので更なる検討が必要と思われる.実験3で検討する.

・ 気づきと帰納推論能力にどうして負の相関が存在したのか?
課題が非常に難しかった(正答率51%).帰納推論能力の高い被験者は,undershootのような単純な方略ではなく,より複雑な方略を編み出そうとしてうまくいかなかったのではないだろうか.そこで実験2,3では方略が外見的によく分かるような課題を与える.

【実験2】
実験2では,,,
1. 気づきと適応性の因果関係を示すために,方略の有効性の変化に「どの時点で」気づいたかを被験者に報告させる.
2. 外見的にどの方略が有効そうかを操作する(これは案外簡単らしい).

≪方法≫
・被験者
46人の大学生.predictive条件23人,unpredictive条件23人.

・ 課題
BST全60試行.実験1で順序の効果が出なかったため,すべて70-30条件(undershootでの成功率が最初の30試行で70%,次の30試行で30%).各ブロックはundershoot bias(undershoot方略で成功しそうな外見)とovershoot biasおのおの5試行より構成.predictive条件では,バイアスどおりの方略をとると,73%の確率で成功.unpredictive条件では53%の確率で成功 .

・ 気づき
今回は多肢選択型の質問紙を用いた.成功比率の変化に気づいていたか,またそれは思考中のどの部分であったか.

≪結果≫
・ 問題の外見と被験者の反応
被験者は問題の外見に敏感(overshoot biasで82%, undershoot biasで26%).これは問題がpredictiveであろうとunpredictiveだろうと関係なし.

・ 全体的な適応性(Figure5)
平均してみると全体的に適応しているように見える.ANOVA(条件×ブロック)ではブロックの主効果有意.条件の主効果や交互作用が見られなかったため,以下の分析では条件はプールして分析を行う.

・ 気づきと適応性
被験者を1.試行中に気づいた(correct immediate, n=13),2.試行終了後に気づいた(correct later, n=11),3.気づいたけれど正しい方向ではなかった(incorrect, n=10),4.気づかなかった(unaware, n=11)の4群に分け,適応性(ブロック6の方略使用−ブロック3の方略使用)を従属変数にとりANOVA.Incorrect群は分散が大きいため除去して再分析すると,有意な主効果.多重比較の結果correct immediateは他の2群より適応性高し.

≪討論≫
問題の外見などに引きずられていても,成功比率の変化の気づきが方略の適応を生み出していた.また,気づきは適応よりも前に起こる可能性が示唆された.しかしこれもまだ相関研究に過ぎず,実験3でより詳細に検討する.

【実験3】
作動記憶容量と適応性の(相関)関係が実験1では明確に見られなかったが,それをより直接的に調べるため,作動記憶への負荷を操作して実験を行う.また,個人差としての作動記憶容量は空間作動記憶ではなく,言語作動記憶を用いる.

≪方法≫
・被験者
44人の大学生.高負荷条件22名,低負荷条件22名.

・課題
BSTの構成は実験2のpredictive条件と同じ.作動記憶容量の操作のため,被験者に二重課題が課される.BST作業中,音声でaもしくはbで始まる単語が3秒ごとに伝えられる.低負荷条件ではそれがaで始まるかbで始まるかを弁別し,キーを押すことが求められ,高負荷条件では前の単語と今の単語の最初の文字が同じか否かを弁別しキーを押すことが求められる(一つ前の単語を覚える分負荷が高い).また,作動記憶容量の測定のため,MODS(modified digit span)が課され,WM容量のパラメタWが算出された.課題推敲中に用いた方略に関して,4つ呈示し てそれぞれ頻度を評定してもらった.

≪結果≫
・ 操作チェック
高負荷条件の方がエラー率が高かった(0.26 vs. 0.11)

・全体的な適応性
作業記憶容量を高群・低群の2群に分け,適応性を従属変数にとり2(作業記憶容量)×2(負荷)の分散分析結果.Figure7は主効果・交互作用ともn.s..WMは適応性と無関係という可能性が示唆された.それに対する反論として

1.サンプルが等質で個人差があまり反映されていないのでは←先行研究では十分反映.
2.作動記憶容量が大きい被験者は負荷の課題に多くの資源を注いだのでは←負荷課題の正確さが高い被験者を除いても同じ結果
3. 高負荷条件では被験者が負荷課題に手を抜いて,BSTに集中したのかもしれない←負荷課題の成績・反応潜時を共変量に共分散分析を行っても群間差は生じず
4. 負荷の違いによって使用している方略が違うからでは←方略の自己報告に群間差なし.

結局,WMと適応性の関係は薄いのかもしれない

・ 気づきと適応性
負荷課題があったため,成功比率の変化に気づいた被験者は実験2よりも少ない(table2).気づきに関して実験2と同じく4群で分散分析(従属変数=適応性).有意にならず(figure8).

≪討論≫
・ WMは方略の適応性にそれほど大きな役割を果たしていない.
・ 気づきと適応性の関係は,有意にならないものの,パターン的には同じ.
・ 負荷課題が気づき(気づいた人の人数)と気づいた場合の適応性を減少させている.
・ 気づきが減少したのはWM容量のせいか?
負荷の違いによって気づきの人数が変わらないので,注意や処理時間といった他の要因が関係している可能性も高い.

【総合討論】
・ WMと方略の適応性には大きな関係はない
・ 成功比率への気づきは適応と関係がある:気づいていなくてもある程度は関係.

・ここから示唆される方略選択のモデル
思考などに余裕があるときには,人は方略の成功比率に気づき方略のシフトを行いやすくなる.思考などに余裕がない場合はこのシフトはより無意識の過程で起こり,ここに作業記憶容量や負荷は関係しない.気づきと方略使用の関係はメタ認知の研究と結びつくし,無意識にも方略選択が行われているという指摘は,Anderson&Lebiere(1998)などの方略使用のメカニズムで説明が可能である.方略選択・制御はすべてが無意識的・意識的というわけではない.なお,成功比率ではなく,見かけのときやすさ(本研究における外見)も方略選択の1つの要素だが,このようなintrinsic factor(Reder, 1987)に関しては完全に無意識的かもしれない.

・作動記憶と気づきの関係
作動記憶と気づきの間に関係がなかったのは驚くべきことである.今後さらなる検討が必要だと思われる.

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