Chapter10. Objects, Concepts, and Categories
In Eysenck(ed). Cognitive Psychology: A Students' Handbook. pp279-304

…Funes remembered not only every leaf of every tree of every wood, but also every one of the times he had perceived or imagined it… He was, let us not forget almost incapable of ideas of a general, Platonic sort. Not only was it difficult for him to comprehend that the generic symbol dog embraces so many unlike individuals of diverse size and form; it bothered him that the dog at three fourteen (seen from the side) should have the same name as the dog at three fifteen (seen from the front). His own face in the mirror, his own hands, surprised him every time he saw them.

記憶の貯蔵に関する3つの原理
・ 認知的節約性(cognitive economy)
・ 情報性(informativeness)
・ 自然的凝集性(natural cohesiveness):人間の概念は,ある種のグルーピングが他のグルーピングよりも起きやすいように凝集(cohere)されている.

人間の記憶は,この3つの原理のバランスによって成立している.本章では,最初にカテゴリ研究に関する主要な知見を述べた後に,それらを説明するための理論を紹介する.また,ここでのカテゴリはObject Category(⇔relations)に限定する.

カテゴリに関する主要な研究知見
カテゴリの実証研究の領域としては「カテゴリの成員判断」「階層性のカテゴリ判断」「予測のためのカテゴリ使用」「カテゴリの可変性(instability)」の4つに分けられる.

1. カテゴリの成員判断(Category judgements of membership)
 物体と概念の関係を調べた研究では,属性(attribute)とその値(value)(e.g. 脚が4本ある,毛がふさふさしている)などで概念は定義されるとしていた.
Bruner, Goodnow, Austin(1956)らの古典的研究では,Figure10.1のような刺激を使った実験であった.被験者はあるカテゴリを決定するルール(「四角くて2個ある」のような)に従う刺激例を1つ見せられ,そのあと実験者に自分から刺激を選択・提示し,それらがルールに従うかを尋ねることができる.そしてルールを発見することを求められる.この実験によりBrunerらは,人がカテゴリ形成の際に用いるいくつかのストラテジーを発見したが,これらは非常に人工的な場面での結果である.より自然の状況では人はそのような方略を用いるとは限らない.
自然界のカテゴリはBrunerらの実験状況ほどクリアカットではない.Roschは,同じカテゴリの成員でもより典型的なものとそうでないものがあるということを示した(Rosch, 1973).カテゴリは,典型性の順序(typicality gradient)によって記述が可能である.すなわち,典型性得点によってその成員を並べることが可能である.そして,この典型性の順序は,カテゴリの成員判断課題での反応時間の差を生む(「ペンギンは鳥である」vs. 「コマドリは鳥である」).
 カテゴリは基本的にファジィであり,典型性からある程度離れた事物は,同一人物が評定しても,状況によってカテゴリの成員であるか否かの判断が違う.Glucksberg(1978)は,ブックエンドが「家具」というカテゴリに属するか否かが,セッションによって違うことを報告した.この問題は「カテゴリの可変性」のところで改めて論ずる.

2. 階層性のカテゴリ判断(Category judgements with hierarchies)
 概念の構造を考えるときに,階層性を考えることは直感的にも納得できる.概念の階層性は多くのレベルを考えることができるが,多くの研究では3つのレベルの抽象化があるということを明らかにした.その中でも特に重要なのは基礎レベル(basic-level)である.基礎レベルの考えは,文化人類学から登場した.Berlin(1972)は,メキシコのTzeltalインディアンが,分類学上の「属」に従って樹木の分類(e.g. ブナ)を行っていることを指摘した.近年,Atran(1999)は,これらの概念システムは通文化的に安定しており,進化の過程で自然選択された,人間の知識の核となる領域であると述べている.
 心理学の分野ではElanor Roschが上位レベル(superordinate level)と下位レベル(subordinate level),そしてその中間にある基礎レベルから階層性を仮定している.Rosch(1976)は多くの研究で基礎レベルの特徴を見出した.例えば;大人が自然に命名する,子どもが最初に獲得する概念,同カテゴリ内では運動的な働きかけが最も似ている(e.g. 椅子),形が似ているため,メンタルイメージでそのカテゴリ全体をイメージできる,カテゴリ間に比べたカテゴリ内の類似性が最大である,情報性と認知的節約性のバランスが差違的である(上位レベルは認知的節約性,下位レベルは情報性が高い).
 基礎レベルは必ずしも中間にあるとは限らない.無生物だと[家具−椅子−肘掛け椅子]のように,中間の用語(intermediate terms)が基礎レベルだが,生物だと[鳥−ツバメ−songツバメ]のように,上位の用語が基礎レベルである.これは,人が経験する量による問題だと考えられる.鳥類学者にとっては,ツバメが基礎レベルだと考えるであろう.

3. 予測のためのカテゴリ使用
 Murphy&Ross(1994)が指摘しているように,カテゴリ化はそれ自身のために行われるのではなく,事物に対する予測を行うためにカテゴリ化を行う.このカテゴリと予測の関係は,カテゴリからの帰納推論(inductive inference from categories)と呼ばれ,特に近年,生態学的妥当性のある課題で実証研究が行われてきた.
Heit(1992)は,学習した事例から人はどのように予測を行うかを検討した.30人の架空の人物に1つの特性と所属しているクラブ名を提示する(Larry is a Jet and liberal).そして,各人は3つの特性を本当はもっていると教示する.そして被験者は,各人に対して,どの特性が当てはまるかをYes-Noで答える(whether Larry was likely to be single).結果,人は"one-step"の推論と"two-step"の推論を行うことが明らかになた.one-stepの推論とは,Larryが想起させる人たち(例えばJetクラブの人たち)がある特性を共通に持っていたら,Larryもその特性をもっているだろうと推論することであり,two-stepの推論とは,Larryが想起させる人たちが想起させる人たちが共通に持っている属性を推論することである.この研究は,カテゴリ事例からの予測が複雑であることを示している.
 一方,カテゴリが不確定なものに対する予測もある(Ross&Murphy, 1996).例えば遠方に犬らしきものがいるときに,これが噛み付いてくる確率を推論する場合などである.これに関しては,単純に犬が噛むと思う確率(過去の経験から計算)を適用する方法(single category),この確率に何らかの修正を行う方法(see Anderson 1990, 1991, 1996, rational model),犬だけではなく動物カテゴリの噛む確率(base rate)を考慮に入れる方法(multiple categories)がある.Ross&Murphyの結果,人は最初の方略(single category)を,カテゴリの不確実性(uncertainty)の程度によらず使用することが明らかになった.
 
4. カテゴリの可変性(The instability of concepts)
 Barsalou(1987, 1989)は,カテゴリが状況によって容易に変化することを示した.例えば「カエル」を読んだとき,「人間によって食べられる」ことは記憶に活性化されないが,フランスのレストランで「カエル」を読んだときには同じことは記憶に活性化される.カテゴリに関する知識には,状況によって初めて活性化される部分(subset)があると考えられる.
 カテゴリの可変性は,カテゴリ事例の順序(grade; 典型性の順序)にも現れる.Barsalouはアメリカ人に色々な鳥の典型性の順序判断をさせた後に,中国人になったつもりで同じ判断をさせると,典型性の順序が入れ替わる(1番典型的なのがコマドリから白鳥に)ことが明らかになった(Barsalou, 1983, 1989).
 さらに,ある種のカテゴリは,記憶内にはよく体制化(established)されていないが,必要に応じてその場その場で(on-the-fly)形成される.このいわゆるアド・ホック・カテゴリ(ad hoc categories)は,ある種の目標を達成(「garage saleで売りたいものを考えよう!」)するときに形成される(Barsalou, 1983, Ross & Murphy, 1999, 本書第9章).

定義的特性に基づく概念観(The Defining-Attribute View)
 これよりは概念に関する理論について言及する.概念に関する理論では,先ほど述べた証拠より否定されるとはいえ,定義的特性理論(defining attribute theory)の役割は大切である.定義的特性理論は哲学・論理学より生まれた.論理学者のGottlob Frege(1952)は,概念は定義的特性のセットよりなっていると論じ,内包(intension)と外延(extension)という概念を提出した.内包とは,その概念を特徴付ける定義的特性のセット(e.g. bachelor(male, single, adult))であり,外延とはその概念に含まれる全ての成員である.このようなアイディアは言語学や心理学でも登場した.
定義的特性理論の概要はPanel10.1に記してある.これによると,それぞれの定義的特性は概念を決定するための必要条件であり,それらが全て揃っていることが十分条件である.この考えでは,例えばある人が"bachelor"かどうかを判別するのは,非常にクリアカットである.また,概念の階層構造を考えた時には,下位の概念は,上位の概念の定義的特性を全て含み,特殊な概念になるほど,定義的特性が増えると考える.この考えに基づいて提唱された計算機モデル(Collins & Quillian, 1969, 1970)がPanel10.2とFigure10.2である(階層を仮定した意味的ネットワークモデル).

・ 定義的特性理論を支持する証拠
先述のBruerらの研究はまさにこの立場にたった研究であったが,ここではCollins & Quillianの,文の真偽判定課題(sentence verification task)を紹介する.
被験者は次の2タイプの文章の真偽をyes-noで判定する.1つ目は"an INSTANCE was a member of a SUPERORDINATE"文である("Is a canary a fish?").そしてもう1つは"INSTANCE had a certain ATTRIBUTE"文である("Can a canary fly?").両者ともネットワークの距離が離れているほど反応時間が遅くなると彼らは予測した.多くの結果はそれを支持したが,反応時間が遅くなると予測される文章の反応時間が早いなど(e.g. "Is a canary a stone?"),意味ネットワークモデルでは説明できない結果も得られた.

・ 定義的特性理論を支持しない証拠
 定義的特性理論に反する証拠は非常に多いが,特に代表的なのがプロトタイプ効果(prototype effects)に関する知見である.定義的特性理論では,人は定義的特性のセットを持っていると仮定するが,人はあるカテゴリに言及する時,定義的特性以外の特性にも言及をし(Conrad, 1972),これがカテゴリの代表性と関係があったりする."bachelor"のように,定義的特性理論で説明できると思われる概念に関しても,プロトタイプ効果は生じる(e.g. "Tarzan"はサルに囲まれ結婚のチャンスが少ないため,独身の代表例にはならない).
 その他の反証は以下の通りである.Smith, Shoben, & Rips(1974)はより距離の遠い上位概念の方が,距離の近い上位概念よりも反応時間が早いことを見出した(e.g. "Is chicken a bird?" vs. "Is chicken an animal?" で後者の方が早い).また,Hampton(1982)は,階層性を持った概念が満たすはずの推移律(transitive law; i.e., as"An X is a Y" and "A Y is a Z" are true, "An X is a Z" is also true)が,人は満たしていないことがあることを示した.またConradは,ある種の定義的特性が他の定義的特性よりも言及されやすいこと,定義的特性には重要性や顕現性(salience)があることを示し,文の真偽判定課題で大切なのは意味ネットワークの距離ではなく,特性の重要性・顕現性であると主張した.
 先述の「予測によるカテゴリ使用」という観点や「カテゴリの可変性」という観点では,定義的特性は確率的に変動するものであり("dogs bite"),またすべてのカテゴリが記憶内で利用可能なものとして保存されているわけではないという意味で,定義的特性理論とは相容れない.
 定義的特性理論に関する最大の問題点は,ある概念に対し,「定義的特性」を決定できないことであろう.その有名な例は,Wittgensteinが挙げた"Game"である.Gameというカテゴリの成員は,家族の顔のように家族的類似性(family resemblance)をお互いに持っているが,必要十分条件である定義的特性は有していない.

・ 定義的特性理論を救う(Saving the defining-attribute view)
 定義的特性は完全につぶされたわけではない.その改訂版がその後も提唱された.Smith&Medin(1974)の特徴比較理論(feature comparison theory) は,定義的特性以外に特徴的特性(characteristic attributes)というものを仮定し,多くの実験結果を説明した.Smith&Medin(1981)はMiller&Johnson-Laird(1976)における概念の核(core)と同定手続き(identification procedure)という違いに基づき,理論を提唱した.概念の核とは定義的特性であり,他の概念との関係を見るときに重要になってくる(bachelorとspinsterの違いは?).同定手続きとは,現実世界において事物がどのカテゴリに属するかを同定する段階であり,これは特徴的特性によって行われることが多い.このように,核は定義的特性理論を残しており,同定手続きは典型性効果を説明する.
 Armstrong(1983)は「偶数」のように定義的特性を明確に持つ概念でも,"22"が早く判断されるなど典型性がある(=概念は定義的特性を持つが,同定する場合には特徴的特性が重要になってくる)ことを示した.もし概念に核と特徴的特性があるのなら,言語にはそれを区別するhedge があるはずである.Lakoff(1973, 1982)は,そのようなhedgeは実際に存在すると論じ,それらをシグナルするものとして"true","technically speaking" "strictly speaking"を挙げた.例えば" Strictly speaking, a penguin is a bird"は,ペンギンが典型的な事例ではないけれど,そのカテゴリに含めたいという意図を意味するであろう.

プロトタイプ(prototype)に基づく概念観
プロトタイプ理論は,カテゴリがプロトタイプというものを有しているという主張にちなんで名づけられたが,2つの立場が存在する.1つは,プロトタイプは独自の重要度を持った特徴的特性から成り,プロトタイプの特徴的特性と事物の特性がどの程度マッチしているかでカテゴリの成員であるかどうかが決まるとする立場である(Hampton, 1979).もう1つは,プロトタイプというものがあるspecificな1事例より成っているという立場である(Rosch, 1978).例えば「鳥」のプロトタイプは「コマドリ」であり,ある事物がこの代表事例と属性を多く共有していたら,鳥カテゴリに属するという考える.但し,本章ではこの2つの考えをPannel10.3にまとめ,1つの立場として議論を進める.

・ プロトタイプ理論を支持する証拠
プロトタイプ理論を支持する証拠は多いが,初期の代表的なものとして「色」に関する比較文化研究がある.文化ごとに色を表す用語の数が違うのは有名であるが,Berlin & Kay(1969)は,このように多様な色の用語があっても,色というものはどの文化も共通で少数の焦点色(focal color)に集約されることを示した.彼らは,1) 1つの形態素からなる(sky blueなどは除外) 2) その色の意味が別の色を含んでいない(scarletは除く) 3) 特別な領域に限られたものではない(blondは除く) 4) よく使われる(turquoiseは除く) という4つのルールで基本的な色を各文化ごとに絞り込んだ.結果,どの文化の基本的な色も11の焦点色のいくつかから成り立つことが明らかになった.英語でこの11色は表現でき(black, white, red green, yellow, blue, brown, purple, pink, orange, gray).さらに300のカラーチップを20カ国の国(全て違う言語)で見せ,カラーチップに名前を付けたり,その色を代表する色を選んでもらったところ,どの国も焦点色を同定した.これは,カテゴリの成員は焦点色を中心に判断されていることを示している.また,darkとbrightという2色の言葉しかもたないダニ族に対して,色を記憶させたところ,焦点色の記憶が他の色の記憶よりもいいことが示された.但し,これらの結果はバイアスが入っている可能性があるので,しっかりと吟味しなくてはいけないという指摘もある(Lucy & Schweder, 1979).また,色に関しては生理学的な基礎があるともいわれており(Gordon, 1989),特殊な例である可能性が高い.
プロトタイプ理論を支持する知見は他にも多い.被験者に典型性を評定させると,精神医学や言語学(noun-ness, verb-ness),そして行動に関する概念(to lie, to hope, など)にも典型性の順序がつくことが明らかになっている.また典型的な事例は 1) カテゴリの判断も早い(A canary is a bird < An ostrich is a bird) 2) カテゴリ成員をリスト化させるときに最初にあげられる 3) 子どもがカテゴリ成員として早く学習する(semantic categorization task) 4) 認知的な参照点になりやすい(An ellipse(楕円) is almost a circle は言うが,A circle is almost an ellipse とは言わない).5) もっとも重要な知見として,Wittgensteinの家族的類似性と,典型性が高く相関していると言う事実である.Rosch&Mervis(1975)は,あるカテゴリにおける成員の家族的類似性得点を算出し,それが典型性の高い成員において高いことを見出した.
最後に,階層性とプロトタイプの関係であるが,階層性の中でプロトタイプ理論を捉えると,基礎レベルの周りにプロトタイプが形成されているという考えがある.

・ プロトタイプ理論を支持しない証拠
プロトタイプ理論を支持しない証拠には主に3つのものが挙げられる.まず,抽象的な概念において,プロトタイプ構造を示すものが少ない(「科学」や「ルール」)という研究がある(Hampton, 1981).次に,人はただ特性のみを知っているのではなく,特性間の関係を知っているのだという考え方である(Malt & Smith, 1983).たとえばある島に,ガイドと二人で行ったとしよう.そこに美しくて青い鳥が飛び立ったときにガイドが"warrum"と指し示したとしよう.また,同じガイドが,でっぷりと太った男の人を指して"klaatu族"だと行ったとしよう.あなたは,また同じような青い鳥を見たときにそれを"warrum"だと思うかもしれないが,同じようなでっぷりと太った人をみてもそれを"klaatu族"だとは思わないだろう.これは,色というのは鳥の種内では可変せず,診断性が高いという事前知識を私たちが持っているからである.この例のように,たった1つの事例を見ただけで,新しいカテゴリ名に関して人々が合理的な判断を行えるということに関し,プロトタイプ理論は何も語ってくれない.先ほど述べた,カテゴリによる予測の研究では,このアイディアを中心に検討している.最後に,プロトタイプ理論は,特性の共有という観点からしかカテゴリの凝集性を説明してくれないという批判もある.先述したようなアドホック・カテゴリのように,特性を共有しないカテゴリも存在する.

エグゼンプラーに基づく概念観
古典的な見解(定義的特性理論)に対する反駁としては,プロトタイプ理論だけでなく,エグゼンプラー(exemplar)・モデルという考え方もある.これは,プロトタイプ効果の背後には,ある特殊な事例が存在するという考え方である.カテゴリ成員の全てからプロトタイプを抽出するのではなく,人は状況によって,特定の事例を検索し使用するという考えである(Pannel 10.4; Brooks, 1978; Erickson & Kruschke, 1998).抽象化された「鳥」というものがプロトタイプとして振る舞うのではなく,そのカテゴリのPictureというものは,幾星霜も貯蔵されている事例の1つだという見解をとる.プロトタイプ理論で説明できる事象は,ある特定の文脈で,どの事例が心に生じるのか,ということさえ明確にすれば説明をすることができる.

・ エグゼンプラー・モデルを支持する研究
例えばカテゴリ判断課題"Is a robin a bird?"と"Is a penguin a bird?"を考えてみよう.エグゼンプラーの観点から考えると,robinの場合に反応時間が早いのは,それまでペンギンより多くのコマドリの事例を経験しているからだということになる.記憶内で,貯蔵されている事例パターンの多さが,反応時間を決定すると考えるのである.さらに,この観点からはカテゴリを使用した予測や,カテゴリの可変性に関する研究も説明できる.アドホック・カテゴリに関していえば,その状況の要求によって,事例を再グループ化すると考えればいいのである.ほかにもプロトタイプモデルが説明できない事象をエグゼンプラーモデルは説明できる.例えば事例の多様性(variability)である.Rips&Collins(1993)は,19インチサイズの事物を,ピザ(普通2インチから30インチ位まであるが,平均すると12インチくらい)と物差し(大抵12インチ)のどちらかに分類するよう被験者に指示した.被験者は,ピザをより多く選択した.もしプロトタイプの観点に立つと,長さの多様性はプロトタイプでは考慮されない(平均値のみが考慮されるため),どちらのカテゴリに属するかはチャンスレベルである.しかし,エグゼンプラーモデルでは,事例間の相関関係も残されている(そして,この知識に基き人がカテゴリ判断などをすることは繰り返し示されている)ので,ピザを選ぶ可能性が高いことを説明できる.

・エグゼンプラー・モデルを支持しない研究
殆どの場合において,エグゼンプラー・モデルはプロトタイプよりもより説明力が高いが,説明ができない事象も存在する.例えば先述のArmstrongら(1983)のような,定義的特性が確定していても,典型性効果が生じる場合を説明できない(18>22).また,概念の定義と典型性の測度(gradeなど)の関係を説明することもできない.さらに,この理論では,class inclusion questionに対処することができない.すなわち"All birds are creatures"の真偽を判定するとき,人は個々の事例ではなく一般的な知識を使用しているように見える.

説明に基づく(explanation-based)概念観
これまでのモデルでも,多くの知見は説明できるが,それでもまだ問題点は積もっている.この点に対する対処法として,単なる特性のリストを越えた,複雑な知識の定式化が必要とされるだろう(Putnam, 1975).これまでのモデルでは,凝集性はあくまでも特性の共有であったが,アドホック・カテゴリや聖書における浄-不浄の動物の分類は,特性ではなく「理論」もしくは「説明の枠組み」が大切になってくる(Murphy&Medin, 1985).彼らのいうところの「理論」とは,科学的なそれではなく,心的な「説明」である.Murphy&Medinは,類似性だけではカテゴリ化に十分ではなく,概念の凝集性を決定するには説明が必要であるとした.これは,概念学習に新しい考え方を生み出したといってよい(Pannel 10.5).
説明に基づく概念観では,概念は特性リストだけではなく,因果的知識などのいくつかの背景知識をスキーマとして含んでいる.例えば,翼があり,羽があり,軽い骨を持っている生物は1つのカテゴリとして自然な凝集性を持っている,と私たちは考える.なぜなら,私たちはこれらの特性が共変する理由の理論(説明)を持っているからである.
この考えは,Miller&Johnson-Laird(1976)の考えがその端緒であり,のち,Lakoff(1987)の理想的認知モデル(idealized cognitive model)やJohnson-Laird(1983)のメンタルモデル,Medin&Ortony(1989)の心理学的本質主義などの一般的な話によって,際立っている.

・ 説明に基づく概念観を支持する研究
説明に基づく概念観を支持する研究は多いが,その中には,カテゴリ判断課題で,類似性とカテゴリ化の乖離を指摘する研究がある.Rips(1989)では,5インチの円を呈示し,カテゴリ化群には,この円がピザとコインのどちらにカテゴリ化されるかを尋ねた.また,類似性群では,この円がコインとピザどちらに類似しているかを尋ねた.結果,類似性群では,円をコインと類似していると判断したにも関わらず,カテゴリ化群ではピザの大きさの多様性を考慮して,ピザにカテゴリ化を行った.また,Medin(1987)は,人は基本的に事前情報が与えられていない場合,1つの次元にのみ着目して事例を分類すること,そして属性間の共変関係に関する情報が与えられて初めて,2つ以上の次元(共変することが明らかになった次元)に基づいて事例を分類することを明らかにした.
カテゴリ学習における初期の研究で,conjunctiveなカテゴリ(black & round & furry)が,disjunctiveなカテゴリ(black or round or furry)よりも学習しやすいという知見が得られている.Pazzini(1991)は,背景知識さえ与えられていれば,この知見が逆転することを明らかにした.Pazziniは「大人が黄色い風船で水遊びをしている」のような絵を被験者に見せて,ある群には「αという状況を同定してください」と教示し,別の群には「後に風船が破裂すると思う絵を予測してください」といった.すると,後者において,disjunctiveなカテゴリが早く学習された(figure10.3: 風船が破裂するかは一般的に or で決定されるものだから).またWisniewski&Medin(1994)は,子どもの絵を分類するルールを被験者に作らせた.その際,片方の群には「これらの絵は創造的な絵とそうでない絵に分かれます」という背景知識を与え,もう片方の群には「これらの絵はグループ1とグループ2に分かれます」というニュートラルな教示を与えた.結果,両群の分類の仕方は大きく変化し,前者はより抽象的な特性に基づいて分類を行い,後者はより具体的な特性(手が書いてあるか,など)に基づいて分類を行っていた.

概念の結合(Conceptual Combination)
これまでは単一のカテゴリの形成や獲得に関する議論だったが,ここでは,複数の概念が結合して,新たな概念が登場する場合を考える.これには adjective-noun; adverb-adjective-noun; noun-verb; noun-noun conbinationsなどいくつもの種類があるが,ここではadjective-noun,noun-nounという2つの概念結合について言及する.
定義的特性理論の観点からいえば,概念の結合は2つの概念の特性が重なった部分で表現されるはずである(e.g. orphan girl).しかしこれには多くの問題がある.例えばLakoff(1982)が指摘するように,fake gunは決して銃ではない.またOsherson&Smith (1981, 1982)が言うように,ある結合語が典型的なものであっても,その元が典型的であるとは限らない(e.g. guppy fish).結合後の典型性を予測するモデルがいくつか提案されている(Cohen&Murphy, 1984; Thagard, 1984など).Murphy & Medin(1985)は,概念的結合は,背景知識が活用されることによって,intersectiveではない結合(ocean driveなど)が理解されるとした.
さらに近年,Costello & Keane(1997, 2000)は,noun-noun combinationに関し,エグゼンプラー的でありかつ,説明に基づく概念観による説明を行っている.彼らによると,結合概念は情報性,診断性(diagnosticity),そして説得性(plausibility)によって意味を生み出される.例えば人が"サボテン魚"という新奇なnoun-noun combinationに遭遇した時,これを「表皮に刺が生えている魚」と解釈するであろう.これは,サボテンに関する診断的な情報を使用しており("緑"という特性は使用されない),説得的な解釈を行い(目に刺が生えているとはしない),また情報性を考慮しているからである(「生きている」というのは両者に共通する属性だが,これだと魚に対し新たな情報が何も付加されないので,この解釈はなされない).彼らは,並列制約充足を用い,この結合過程に関する計算機モデルを提唱している(see also Markman & Wisniewski, 1997, Estes & Glucksberg, in press).

概念と類似性
これまで,「類似性」ということに関して大きな検討を加えてこなかったが,以下,この類似性に関する重要なモデルを提示し,これらのモデルに疑問符を投げかける近年の研究を報告する.

・ Tverskyの類似に関する対比モデル(contrast model)
類似性に関する認知心理学でのもっとも古典的で成功したモデルはTversky(1977)の対比モデルである.このモデルによると,類似性は以下のように定義される.



s(a, b)は,概念AとBの類似性であり,A∩BはAとBの共通特性の数,A-B, B-AはA,Bの特性の差=識別性(distinctiveness)である.fは各特性に関する重要性などの重み付けを表す関数であり,θ,α,βは共通性,識別性どちらを重要視するかの重み付けパラメータである.αとβが違うということは,類似性判断の非対称性を意味している.すなわち,s(a, b)≠s(b, a)である.一般的に"a(subject) is like b(referent)"という類似性に関する文があったとき,referentにはより目立って重要な概念が来るし,類似性の判断でもより類似度が高いと評定される(Table 10.1).よって,subjectとreferentの意味は少し違ったものになり,非対称性が生じる.

・ 関係を包含するための類似性モデルの拡張
Tveskyのモデルでは,類似性は特性リストによって決定されるが,関係(relation; like files, on-top-of, connected-to)も重要な要素である.古典的研究では,関係は特性の1つとして扱われてきたが,近年ではこの両者を分離した研究が行われている.
Medinら(1990)の研究では,Figure10.4を提示して,Tと類似しているのはどちらかを被験者に尋ねている.AはTと特性を共有(黒い円)し,BはTと関係を共有(同じ色の要素をもっている)している.結果,被験者は類似性判断の際,特性より関係を重視することが分かった.Goldstone(1991)はこの知見に即し,MAX仮説を提唱した.この仮説によると,特性と関係の類似性は別々にプールされ,より大きい方のプールが類似性判断に利用されるという仮説である.このような類似性研究はアナロジー研究との関係が大きい.そこではある概念の関係的構造を,いわゆる構造整列(structural alignment)を用いてマッピングを行うとしている.(Markman & Gentner, 1993a, b).そしてこの考え方は類似性に関してもかなり近年の注目を集めている(but see Davenport & Keane, 1999).

・ 概念学習に関するコネクショニストモデル
これまで述べてきた概念学習に関する計算機モデルは,Collins&Quillianスタイルの,意味ネットワークモデルであった.近年では,コネクショニストモデルに関するアプローチが盛んである.実際のところ,意味ネットワークモデルというものは,局所的(local)コネクショニストモデルなどと類似性がとても高い.具体例としてMcClelland(1981)のinteractive activation nets(IAC)を見てみよう.Table10.2は映画「ウェスト・サイド・ストーリィ」に出てくるギャング集団のメンバーと特性である.これをもとに,Figure10.5にあるような制約充足のモデルを作る.同じプール内の特性は,記述されていないが抑制性のリンクで結合されている.さて,このモデルのもとであるノードを活性化させ続ける(clamping)と,ある一定の活性化パタンの状態に収束する.例えば,Artノードをclampingすると,最終的な活性化パタンでは,Artの属性が強く活性化している.また,Artと同じような属性をもっている人間(ClydeやRalph)も活性化する.さらに面白いことに,今度はJetsノードをclampingすると,Jetsというギャング集団の特性についての一般化された表象が活性化パタンとして登場するのである(具体的にはsingle, 20s, junior high-schoolなど).
このコネクショニストモデルの重要な点は,私たちが一般的知識を符号化してモデルに搭載する必要がまったくない点である.一般的な知識は,累積された事例より創出される.その意味で,エグゼンプラー・モデルの1つの形と考えることが可能である.

カテゴリ化に関する理論の評価
これまで4つのモデルを見てきたが(定義的特性・プロトタイプ・エグゼンプラー・説明に基づく概念観),実際のところはこれらのmixtureが正しいのであろう.定義的特性は非常に実証的基盤が薄い,一方プロトタイプとエグゼンプラーモデルは,典型性効果・概念の階層性,カテゴリ帰納に関して多くの支持する知見があるが,特にエグゼンプラーモデルは柔軟性に富み,多くの知見を説明する.但し,class inclusion question(帰納的なstatement)のように,抽象化された知識を考えないと説明できないものもあるということを忘れてはならない.そして,エグゼンプラー・モデルだけでもすべての現象を説明するのには不十分である.概念学習には,もっと理論やルールに基づいた過程が存在しており,関係の表象なども,プロセスとして大きな意味を持っているはずである(構造整列など).

概念に関する神経学的証拠
神経学的な疾患を伴った患者を対象にした研究は,多くの興味深い知見を提供した.
まず第一に,意味記憶の損傷がある.読むことや話すこと自体は問題ないのだが,知識の貯蔵やアクセス,もしくはその両方が損傷を受けたという事例が多く存在する.例えばSaffran & Marin(1980)が研究した症例WLPは,極度の痴呆症であった.彼女は読む能力はあったが,理解力は極端に低く,単語を絵とマッチさせる課題の成績(基礎レベルのカテゴリを使用)が低かった.ただし,彼女が間違った単語を選んだ時,正しい単語と意味的に近い単語を選ぶ傾向があった.
次に興味深い知見として,上位レベルの概念は,下位レベルの概念よりもダメージを受けにくいという知見である.Warrington(1975)は極度の痴呆症である症例EMに関し,"Is cabbage an animal, a plant, or an inanimate object?" というタイプの質問と,"Is cabbage green, brown, or gray?"というタイプの質問を行った.結果,前者のようにより上位レベルのカテゴリを問う質問では2%しか不正解はなかった一方,後者のようにより下位レベルの属性に関する質問では28%もの間違いがあった(この知見に対する反論としてRapp & Caramazza, 1989).また,Fedio(1983)はアルツハイマー症例患者における命名エラー(naming error)を紹介し,この観点を裏付けている.アルツハイマー症例の患者は,より上位の概念で物体を命名する傾向がある.例えばアスパラガスは「野菜」と命名され,ペリカンは「鳥」と命名される.
そして最後に,最も重要な知見として,ある特定のカテゴリ事例のみが損傷を受けるという報告がいくつもあることが挙げられる.例えば,Dennis(1976)は身体部位(body parts)のカテゴリのみが損傷を受けた患者を報告した.Warrington&Shallice(1984)は,単純ヘルペス脳炎(herpes simplex encephalitis)によって側頭葉内側部(medial temporal lobes)に損傷を受けた患者が,生物と食物を同定するのに非常な困難を示す事例を報告した.さらに,Hart, Berndt, & Caramazza(1985)は,果物や野菜に関する命名やカテゴリ化ができなくなった症例MDを報告した.コネクショニストモデルの破壊実験(lesioned connectionist models) が,これらの現象を説明している.一方,ある研究者は,これらの結果が事物の親近性(familiarity)や出現頻度を統制していなかったために生じたアーティファクトであるとしており(Funnell & Sheridan, 1993; 実際,これらの変数を統制すると,そのようなカテゴリ特定の損傷効果は消えたとしている),議論がなされている(Forde&Humphreys, 1999).
さて,これらの知見はこれまでの概念に関する理論にどういう意味があるだろうか.Shallice(1988)は,上位レベルのカテゴリが損傷されにくいという知見は,Roschの「基礎レベル」というものがそれほど大きな意味を持っていないことを示唆しているという.彼は,心理学的モデルの中でも後期(later)ネットワークモデル(Collins & Loftus, 1975)や,分散記憶スキーマ(distributed memory schemes; McClelland&Rumelhart, 1985)がこの現象を説明するのに有力であるとしている.分散記憶スキーマでは,個々の事例の表現パターンより,上位レベルの情報の表現パターンの方が,ダメージを受けにくい.

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