An Analysis of Ideomotor Action
Lothar Kunf, Gisa Aschersleben, and Wolfgang Prinz
Journal of Experimental Psychology: General 2001, 130, 779-798

※実際の論文についている図表がないと理解はかなり苦しいと思います.

【問題と目的】
観念運動(ideomotor action)とは,他者の行動を知覚した際に観察者に生じる運動のことである.例えばサッカーの試合を観戦しているときを考えるとよいだろう.それはあたかもある行動を誘発する力のようなものが,知覚に内在しているかの如くである.しかしながら驚いたことに,このできごととそれによって誘発された行動の間の関係というものは,私たちの知っている限り,実験的に詳細に検討されたことはない.

Principles and Mechanisms of Ideomotor Action
これらの現象が無視されてきたのには歴史的な経緯がある.Carpenter(1874)は観念運動を広義の意味として使っていた.すなわち,観念運動は歩行や発話のような,自動的な行為というもの全てに適用された.Carpenterは,観念 (idea)と動き(movements)の関係の直接性(immediacy)を観念運動の定義とした.Carpenterによれば,こっくりさんや読心術,舞踏病(Saint Vitus's Dance)も,行為者の制御なしで観念が行為を起こすという意味で,観念運動に含まれるものだった.同時にCarpenterは狭義の観念運動も定義した.すなわち,観念と「一致した方向」で(それゆえ類似性を持って)なされる行為を観念運動としたのである.すなわち次の2つの基準を満たすものが狭義の観念運動である a) 観念の直接的な統制下にあること b)観念は行為と何らかの類似性を持っていること.
観念運動がポピュラーになったのは何といってもJames(1890)の「心理学原理」における「意志(will)」に関する議論だろう.彼は狭義の観念運動という用語をCarpenterから引用した.他者の動きを見ることがそれと一致した方向の行為を観察者に喚起(awaken)させる,ということを彼は観念運動とした.
Carpenterの観念運動の考えは,のち超自然的な現象にのみ適用され,まじめに扱われたなかった.Thorndikeはその著の中で「観念が行為を引き起こすというのは,『熊のぬいぐるみを着ると力が漲る』と同じ類のものだ」と批判した.しかし観念運動はそれからも幾たびか注目を浴びてきた.その舞台がテレパシーのような怪しい現象の場合もあれば,知覚・社会的認知の領域(e.g. Bargh, 1997)で扱われることもあった.だが,そのような行為と知覚の関係をもっと直接的に検証しようという研究は行われてこなかった.
観念運動の考えに理論的な前進を与えたのがGreenwald(1970, 1972)である.彼はは"Ideomotor Compatibility"という考えの中で,この観念運動のメカニズムに言及した.ある行為の知覚が観察者に同種の行為を引き起こす理由は,知覚した行為と,それによって引き起こされた行為の「結果」というものが,非常に類似しているからであるとした.この考えは,Jamesの記述に機能的な素地を与え,観念運動の神秘性を剥ぐものであった.
本研究の目的は2つである.まず最初にJames-Greenwaldの原理に基いて,観念運動の概念的枠組みを明らかにすることであり,次にその枠組みを元に,観念運動に関する実証的な検証を行うことである.

Perceptual Versus Intentional Induction
さて,知覚と行為の関係にはどのようなものが考えられるだろうか.1つ目として,観念運動は模倣(imitation)の1つであるという仮説が考えられる.すなわち,人は自分が見た動きというものを実行するという考え方である.これを本稿では知覚的帰納(perceptual induction)と呼ぶことにしよう.2つ目に考えられるのは意図的帰納(intentional induction)という考え方である.すなわち,人は見たものを繰り返しているのではなく,見ているできごとの未来を望んでいるほうに変えられるかのように行為するという考え方である.見たものの「そうあって欲しい動き」というものを実行すると言い換えてもいいだろう.意図的帰納の場合には,観察者の状況の「解釈」というものが大きな要素になってくる.つまり,知覚的帰納は観察者の知覚的な表象のみで行為が誘発されるが,意図的帰納の場合,知覚的表象に加え,観察者の「目標」といったものも考慮する必要がある(知覚的表象+観察者の目標を「意図的表象(intentional representation)」とする).従来の観念運動の考え方は,知覚的帰納に近いものであったが,おもしろいことにJames自身は,どちらともとれるような言葉づかいをしている.
ここでボーリングの例を考えてみる.ボーリングのボールを転がしたとき,人は自然と体が傾くだろう.今までの例と違うのは,人はボールの現在の動きというよりは,ボールの動きの結果(effect)を見て(予想して),身体を動かしている点である.この場合も先ほどの2つの区別は可能である.動いているボールの結末にあわせて身体を動かすのが知覚的帰納であり,動いているボールの結末を変えようと身体を動かすのが意図的帰納である.この例はLotze(1852)のものだが,彼自身は知覚的帰納として観念運動を捉えていた.
では,この知覚的帰納と意図的帰納の考えのどちらが正しいのだろうか.本研究では,ボーリングの例をもとに,この問いに答える実験をデザインし,検証を行った.

【実験1】
・ 実験はコンピュータ画面上で行われる:Fig1…ビリヤード風のゲーム
・ 球は必ず最初に右の壁,上の壁の順にあたり,最後にターゲットに向かってゆく
・ 図で小ドットの箇所をStarting Phase,大ドットの箇所をInduction Phaseと呼ぶ
・ ゲームはディスプレイ前に取り付けられたジョイスティックで行われる.
・ 2つの条件を設定
a) Ball条件:被験者はジョイスティックでキューを操ってボールを突き,ターゲットを狙う.ボールを突いた後は,被験者は何もコントロールできない.
b) Target条件:被験者はジョイスティックでターゲットを水平に動かしボールに当てようとする.ボールはコンピュータによってランダムな力・角度で突かれる.被験者がターゲットを動かすことができるのは球がStarting Phaseにある時のみである.

・ Induction Phase(両条件でジョイスティックが操作不能の時)にジョイスティックがどの方向に倒されているかを見るのが目的:本研究では水平方向の力のみを扱う.
・ 仮説:
1) もし知覚的帰納が正しいのなら,Target Phaseではジョイスティックがずっと左の方向に向いているはずである.
2) 意図的帰納が正しいのならば,Ball条件ではBallをコントロールしてTargetに当てようとする動作が,Target条件ではTargetをコントロールしてBallに当てようとする動作が見られるだろう.また当たりそうなときには動作が見られないだろう.

≪方法≫
・ 被験者:男4名・女4名.平均年齢27歳.右利き7人・両利き1人.
・ デザイン:1つの条件につき40練習試行の後250本試行.順番は被験者間でカウンターバランス.

☆手続き
・ 被験者はディスプレイの前に座り,片手でジョイスティックを掴む.
・ 被験者のモティベーションを高めるため他の被験者より高いスコアを得たらDM10(about 5$)を与えると教示する.
・ 被験者に実験意図を悟られないと同時に,試行ごとにジョイスティックを離さないようにしてもらうために"recalibration"という手続きを教示:試行が終わったらジョイスティックについているボタンを押しながらジョイスティックの位置をセンターに戻す.
・ Ball条件は自分のペース.Target条件は自動的に試行が進む(2秒間のインターバル)
・ Ball条件の所要:約75分.Target条件の所要時間:約50分.

☆データ処理
・ ジョイスティックの水平成分の動きのみを対象にFig2のようなグラフを描く.
・ 縦軸は移動距離.球のスピード自体は反射ごとに落ちていく.よってInduction Phaseでは縦軸は時間を表しているとも考えられる.
・ 横軸はジョイスティックの左右の位置.マイナスが左,プラスが右.
・ Induction Phaseの動きが知覚によって引き起こされたものか(つまりジョイスティックが操作不能だということに気づいている状態="induced movements"と呼ぶ),Starting Phaseの動きの余韻(="instrumental movements"と呼ぶ)なのかを判断するために「200msルール」を導入 .
・ 200msルール:ジョイスティックの静止状態がInduction Phaseで200msを超えた場合のみ,そのあとのジョイスティックの動きをinduced movementとする(Fig3).
・ データ解釈のため2つの指標を導入
1) 平均的な軌跡:まず個人内データを平均した後,その値を個人間で平均した軌跡
2) NIS(net induced shift):200msの静止点から最終的な位置の差

≪結果≫
・ Fig4:ジョイスティックを離した試行以外の平均.Left Missesは球が左側にそれた場合,Right Missedはその逆.Hitは球が当たった場合.
・ Target条件でTargetをボールの方向に向けようとしている状態が分かる.
・ Fig5:200msルールでデータをフィルタリングした後(全試行の6.3%が除外),200msの静止点の位置をセンターとしてinduction phaseの軌跡を再描画.最終点はNISと同一.
・ NISを2(target/ball条件)×2(right/left misses)のANOVA:主効果・交互作用とも有意.Ball条件ではNISはmissに関係なくマイナスだが,Target条件ではmissによってNISの方向が違う.

≪討論≫
・ Target条件では明確に意図的帰納を支持.
・ Ball条件では意図的帰納は不支持:球をTargetに当てようという意図が,Starting PhaseとInduction Phaseで左右逆になってしまった可能性 .
・ Ball条件では知覚的帰納を支持しているようにも見えるが,これはジョイスティックを元に戻そうとする操作の影響かもしれない.
・ 実験2では,新たな実験パラダイムを考案し,これら2つの問題点に対処する.

【実験2】
・ 実験は同じくコンピュータのビリヤードゲーム:Fig6
・ 各試行ごとに,3(targetの位置)×2(球の位置)×8(軌跡のパターン)の組み合わせの中のどれかがランダムに選ばれる.
・ 試行ごとに破線部までをInstrumental Phase, 破線部以降をInduction Phaseと呼ぶ.
・ 2つの条件を設定
a) Ball条件:被験者はInstrumental Phaseの間だけジョイスティックで球を左右に動かすことが可能.Induction Phaseでは動かすことができない.
b) Target条件:被験者はInstrumental Phaseの間だけジョイスティックでTargetを左右に動かすことが可能.Induction Phaseでは動かすことができない.

・ 被験者が何も操作しなければ球がTargetに当たることはない.
・ Recalibrationの教示は試行ごとに出る.また,試行開始時にジョイスティックの位置がセンターにある場合は,いったん別の場所に動かしてから戻さなければならない:Induction Phaseで元に戻す動きをさせないため.

・ 仮説:
1) もし知覚的帰納が正しいのなら,Target Phaseではジョイスティックがずっと球の動いている方向に向いているはずである.
2) 意図的帰納が正しいのならば,Ball条件ではBallをコントロールしてTargetに当てようとする動作が,Target条件ではTargetをコントロールしてBallに当てようとする動作が見られるだろう.また当たりそうなときには動作が見られないだろう.

・ データ処理:200msルールに加え,NIS算出の際には80%のポジションの値を使用することに決定…レバーを元に戻す動作をカットするため.
・ 具体例:Fig7…Instrumental Phaseは平均942ms, Induction Phaseは平均1982ms.

≪方法≫
・ デザイン:上の3×2×8を各被験者それぞれの条件で8セット.つまり3×2×8×2×8=768試行.その前に練習試行が48×2試行.所要時間は各条件約90分.
・ 被験者:男4名・女4名.平均年齢25.5歳.全員右利き.
・ 手続き:実験1とほぼ同じ

≪結果≫
・ Fig8:平均的な軌跡…意図的帰納を支持するパターン.
・ 10試行をジョイスティックから手を離したとして除外.200msルールを適用したところBall条件では25.6%, Target条件では37.6%が除外の対象.
・ 除外し,実験1と同じように再描画した図がFig9:NISは80%での位置.
・ NISに関し2(条件)×2(Miss)×2(ボールの方向)のANOVA:Missと条件に有意な交互作用…Ball条件とTarget条件では,Missの方向に対するNISが正反対.
・ また,3次の交互作用有意:Left Miss, Ball条件でボールの方向の単純主効果あり.

≪討論≫
・ 意図的帰納の証拠は,Ball条件,Target条件ともにみられた.
・ 知覚的帰納の証拠はほとんど得られなかった
⇒ボールの水平方向成分の強弱が関係しているのでは?⇒再分析⇒やはりダメ.
・ 知覚的帰納はinstrumental effectorとも呼べる「手」ではなく,身体のほかの部位で生じているのではないだろうか:instrumental effectorは意図の影響を受けやすいから.

【実験3】
・ 実験2と同じ内容を被験者の頭と足の動きも測定して行う.
・ 被験者の右足,頭部にマーカーをつけて動きを測定する.被験者には生理的指標を測定するためと説明する.他の手続きは実験2と全く同じ.
・ 被験者:男3名・女5名.平均年齢25.9歳.全員右利き.

≪結果≫
・ 200msルールで除外されたのは全体の32.5%の試行.

☆手の動き
・ Fig10が全体の平均的な動き,Fig11はデータを除外し,これまでと同じ方法で再描画したときの図.
・ NIS:2×2×2のANOVA.条件×Missの交互作用有意…意図的帰納を支持.また,ボールの方向の主効果有意…知覚的帰納を支持.

☆頭の動き
・ これまでのように,水平成分のみを分析
・ 手の動きのときに200msルールで場外されたデータは使用していない.
・ NISはInduction Phaseの初期状態と最終状態の差で定義.
・ Fig12が全体の平均的な軌跡.
・ NIS:2×2×2のANOVA.ボールの方向の主効果が有意.条件×Missの交互作用は有意にならず.Missの主効果が有意…条件に関わらず球をTargetに近づけようと動く.
・ 知覚的帰納が支持され,またボールをTargetに動かすという意味の意図的帰納も支持.
・ 2つの主効果の効果サイズ(η2)は,ボールの方向の効果サイズがわずかに大きい.

☆足の動き
・ データの扱いは頭の動きの場合と全く同じ.
・ Fig13が全体の平均的な軌跡.頭の場合とほぼ同じパタン.
・ NIS:2×2×2のANOVA:ボールの方向・Missの主効果が有意.ボールの方向の主効果の効果サイズの方がわずかに大きい.
・ 知覚的帰納が支持され,またボールをTargetに動かすという意味の意図的帰納も支持.
・ 頭と足の動きが似ているのは,身体的な制約のためか:両者のNISの相関をとったところ,ほぼ0に近い値…両者は独立に同じパターンを示している.

≪討論≫
・ noninstrumental effectorである足と頭に知覚的帰納の証拠が見られた
・ 手に関しても,意図的帰納と知覚的帰納の加算的な効果が見られた…実験2との違い
・ noninstrumental effectorである足と手には,意図的帰納の証拠も弱いながら見られた.
・ 目の動きと頭の動きを分離して考える必要性.


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