Dynamics and Constrains in Insight Problem Solving
Ormerod, T. C., MacGregor, J. N., & Chronicle, E. P.
Journal of Experimental Psychology: Learning, Memory, and Cognition, 2002, 28, 791-799

【問題・目的】
◇ 洞察(insight)に関する研究
・ 古典的なゲシュタルト心理学の研究:Kohler(1925), Wertheimer(1959), Duncker(1945)
  ↓
   しばらく研究中断
       ↓
・ 過去の経験が初期の問題表象にバイアスをかける.解決には表象変化が必要(Ohlsson, 1992)
・ 洞察に関するプロセスとして,インパス時の「制約緩和(constraint relaxation)」と「チャンク分割(chunk decomposition)」が提唱され,検証可能な形になった(Knoblich, et al. 1999).

・ 制約緩和:解決者の問題表象に影響を与えている制約が弱いほど,制約緩和が起こりやすい
・ チャンク分割:問題をさらに認識できる(recognizable)チャンクに分割できるほど,チャンク分割は起こりやすい(loose ⇔ tight).

・ 上記の近年の理論は,ゲシュタルト心理学の考えと重なるところが多い(e.g. 「構え(≒過去の経験による阻害)」「再体制化(≒チャンク分割)」「barrier(≒制約)」「cessation of restraining forces(≒制約緩和)」.
・ ゲシュタルト心理学にあって,近年の理論にないもの:解決者をある方向へ動かす,ダイナミックで駆り立てる(driving)力 ⇒ 本研究の対象.

◇ では,この「ダイナミックな力」とは?
・ Kohlerの実験再考:目標への直接的なパスは達成不可能だが,遠回りの(roundabout)パスは確保されている状況.
  ⇒ここで,「最初に,解決のためのパスを見出すことを阻害するものは何か」
       「その解決のためのパスを,最終的に発見させるものは何か」
                            という2つの問いが可能.
・ 2番目の問いに関して:ゲシュタルト心理学も近年の理論も同じ回答…再体制化
・ 1番目の問いに関する答えは,両者で違う
  近年の理論:過去の経験によるバイアス
  ゲシュタルト心理学:解決への直接的なパスへ駆り立てる力
   …restraining force of the barrierと衝突したとき,インパスが生じる(トラップに陥る).
・ インパスの構成要素
1) 制約(これだけだとインパスは非常に静的な意味になってしまう)
2) 制約の前でもがきながら問題解決行動を駆り立てるダイナミックな力
・ 制約緩和だけではなく,制約の前でもがくことが洞察的問題解決では必要なのではないだろうか?

◇ 著者らのモデル(Chronicle, Ormerod, & MacGregor, 2001)
・ 9ドット問題を下敷きにしている
・ 問題解決者は,まず局所合理的な方略を用い,criterion of progressを満たしながら問題解決を行おうとする.しかし,この方略をいくら使っても問題解決ができないときに,criterion-failureが生じ,別の方法(move)が必要となる.この時に,制約緩和が起きる.
・ MacGregor, et al. (2001)の実験:9ドット問題で
視覚的ヒント群(制約緩和情報あり):直線が図を突き抜ける形で,一手目のヒントあり
対照群(制約緩和情報なし):一手目のヒントは,対角線の直線

・ モデルからの予測では,よりもがいてcriterion-failureが起こる対照群のほうがパフォーマンスがよい⇒何と仮説を支持(制約緩和よりもcriterion-failureが重要).
・ 本研究では,この結果が別の洞察課題(8コイン課題)でも再現されるかを検討する

◇ The Eight-Coin Problem(8コイン問題はこちら)
・ Figure1:「次の8枚のコインのうち,2枚を動かして,全てのコインがそれぞれちょうど3枚のコインと接触しているような状態にしてください」
・ 6本のマッチ問題(Scheerer, 1963)や,4本の木問題(Metcalfe, 1986)と類似した洞察(3次元の発想)が必要.
・ ここにおける局所合理的な方略:2次元の動きをすること…最初の手に関して3つの方略
1) 3枚のコインと接しているコインの数が最大となるように動かす…認知的負荷高
2) 3枚のコインと接しているコインの数が,初期状態より増えるよう動かす…負荷中
3) 動かしたコインが,3枚のコインと接するように動かす…負荷低
・ Figure1上段の初期状態は,これらいずれの方略も適用不可能なもの(以下,no-move available(NMA)条件; 即ちcriterion-failureがすぐに起こる),中段の初期状態は,これらの方略を適用するパターンが20通りあるもの(以下,move-available(MA)条件).
・ 2つの条件に関する予測:MA条件は,criterion-failureが起こる前にいくつかの手があるため,初期の段階で洞察が起こりにくい.NMAは逆に洞察が起こりやすい⇒予備実験

◇ 予備実験(pilot study)
・ 24人の被験者をNMA条件とMA条件に無作為に配置.
・ 問題提示→4分解決時間→ヒント1→1分解決時間→ヒント2
・ ヒント1(グループ化ヒント):コインは2つの分離したグループに分かれます
・ ヒント2(3Dヒント):あるコインは,他のコインの上に置かれます
・ 結果:NMA条件…ヒント1後に9人,ヒント2後に2人
    MA条件…ヒントなしで4人,ヒント2後に4人
・ 最終的な解決者数は予測どおりだが,ヒントなしでの解決者は予測と逆…MA条件の方が,コインが2つの分離したグループに分かれるということが,視覚的に思いつきやすいからでは?→実験1では,視覚的統合性(figural integrity)も考慮に入れる必要性.

【実験1】
・ Move-Availabilityと視覚的統合性を操作して,これらの要因が問題解決に及ぼす影響を見る.
(この視覚的統合性は,ChunkのDecompositionのしやすさ(loose-tight)に対応している
 と考えることが可能なため,メタ的には⇒ Chunk-Decomposition vs. criterion failure と
 見ることが可能)
・ 2(Move Availability)×2(視覚的統合性)の被験者間計画:Figure2が問題 .上段-下段は視覚的統合性高-低(tight-loose)に,左側-右側はMA-NMAに対応.

≪方法≫
・ 被験者:60人の大学生(4人の大学生は,実験後お互いに問題について議論したため除外).
・ 手続き:問題の教示→問題解決(2分)→グループ化ヒント→問題解決(2分)→3Dヒント→問題解決(2分). 試行錯誤は何度でもしてよい.

≪結果≫
・ Table1:最終的な正答者に関し,logistic factorial standardized contrastsとANOVAを実施.いずれも,Move-Availabilityの主効果sig.視覚的統合性の主効果・交互作用はn.s.
・ MA条件において,3枚とくっつくようにコインを動かす方略を最初の1手でとったのは7人(25%).他のコインとくっつけることを考えた場合,そのありうる操作数は232通りあり,そのうち上記の目的を達するのは15通り(6%)なので,上記の方略はチャンスレベルよりも多く使用されている.

≪討論≫
・ Move-Availabilityが最終的な解決に影響を与えている.
・ 視覚的統合性の主効果なし:Knoblich et al(1999)のChunk Decompositionの予測と矛盾.
・ 実験者が予測した方略を被験者はより多く使っている.

【実験2】
・ 実験1:問題解決に必要な情報が詰まったヒントがあっても,問題を解けない人がおり,Move-Availabilityという要因が重要である.
・ より問題解決に関する情報が顕現的な,視覚的ヒント条件を導入し,問題解決に関する情報と,Move-Availabilityの効果の大きさを比較する.
(メタ的には⇒  制約緩和のための情報 vs criterion-failure と見ることが可能)

≪方法≫
・ 被験者:52人の大学生.
・ 2(Move-Availability)×2(視覚的ヒント)の被験者間計画.Figure3が問題.上段-下段は視覚的ヒント有-無に,左側-右側はMA-NMAに対応.
・ 問題の教示→問題解決(6分)→グループ化ヒント→問題解決(1分)→3Dヒント→問題解決(1分). 試行錯誤は何度でもしてよい.

≪結果≫
・ Table2:最終的な正答者に関し,logistic factorial standardized contrastsとANOVAを実施.いずれも,Move-Availabilityの主効果sig.視覚的ヒントの主効果・交互作用はn.s.
・ 視覚的ヒント有・MAと視覚的ヒント無・NMAとの計画的対比検定:ヒント無・NMAの正答率が有意に高かった.
・ MA条件において,3枚とくっつくようにコインを動かす方略を最初の1手でとったのは12人(46%).チャンスレベルよりもはるかに大きい値.

≪討論≫
・ Move-Availabilityの重要性を指摘.
・ 視覚的ヒントは最終的な解決に影響を与えず:視覚的ヒントが不適切だったわけではない.その証拠に,視覚的ヒント有群では,最初のヒントより前に解決に到達している人が多い.
・ 計画的対比検定の結果は示唆的:criterion-failureの経験が,解決(洞察)のための準備性(preparedness)を生み出している可能性.
・ 各条件に問題が一種類しかないため,他の要因が交絡している可能性:現在検討中.

【総合考察】
・ 洞察的問題解決は,ただ制約がなくなったら解決するわけではない:制約緩和のための情報(この場合は3Dヒント)は,criterion-failureの経験があったときに,より生かされる.
          ⇒制約緩和は,問題解決のための必要条件であるが,十分条件ではない.
         (⇒洞察的問題解決のダイナミックな側面)
・ 洞察課題を実験的に操作するときに,本研究におけるeight-coin problemの有用性.
・ 人は局所合理的な方略を用いて,問題に対し積極的にアプローチするため,そのような局所合理的な方略が使えるが適切ではない課題において,課題解決に到らない(逆にそのような方略が使えない=criterion-failureに陥る課題においては課題解決に到りやすい)とするMcGregor et al.(2001)の情報処理的なモデルを支持.
・ 本研究の結果は,失敗が洞察的問題解決にとって大切であるとするSeifert, et al.(1995)のモ(opportunistic assimilation hypothesis)にも合致  ⇒但し,著者の理論では,criterion-failureのみが解決に必要とする立場.

・ 制約はなぜ起こるのか?:U.S やU.Kで,コインを重ねることは日常的:制約は,過去の経験より生じるのでは必ずしもないのでは?
・ criterion-failureを経験すると,他の解法を探ることになるが,本実験では,3Dヒントが得られるまで,NMA条件の正答率は上昇しなかった
   ←正答に近い方略(コインを重ねてみる)をとっても,少しうまくいかないともとの2
    次元方略に戻る傾向(これは9ドット問題でも同様の現象が見られた).
   →他の解法は無限通り存在し(溶かすとか折り曲げるとか),その可能性を絞るために, 
    ヒントが必要.

質問はこちらまで

Kouのホームページ   HOME